☆こちらは鬼灯の冷徹の私設ファンサイトという名の二次創作サイトです。(まことに申し訳ありませんが性質上18歳未満の方は御遠慮ください)★原作者・出版社等とは一切無関係です。女性向け、腐った妄想垂れ流し注意です。☆取り扱いカプ→鬼灯×白澤、白澤×鬼灯
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
モブ白続きというかモブ白からの鬼白初えちーな後日談。神獣さまにうやうやしく跪いて足に口付けながらその足を引きずり倒してひんむきたくてもうこの気持ちどうすれば……ふう……落ち着こう……後半が長くなりそうなんで二回にわけました続きます
鬼と獣の二律背反~After~
ツバメが低く飛ぶと雨がふる。
黒猫が前を横切ると災厄がある。
霊柩車を見かけるとよくないことが起こる。
このようなジンクスは古今東西にあり、
神獣白澤もまたそのような神秘的(眉唾とも言える)な存在の一つだった。
吉兆の印、平和の象徴。
白澤は賢帝と、平和な治世に現れるという。
幸運にもその姿を見かけた者は孫子の代まで繁栄があるのだと言い伝えられている。
だからというわけではないが、白澤は時折現世へ降りて行く。
珍しい遊びがあるし、女の子も可愛い。
もっとも、あの恐ろしい鬼が絡むと望まなくても下界におっこちるハメになることも多々あるのだが。
何より白澤は人間が好きだった。
あまりに早く生まれすぎた白澤は、何千年も、何万年も、人間が生まれるのを心待ちにしていた。
しかしその白澤が天国ばかりか、中国との境の桃源郷からも一歩も外に出なくなってから早く2週間。ほとんんど永遠の時を生きるあの世の人間には瞬きをするような時間ではあるのだが、日替わりで女の子をとっかえひっかえふらふらと落ち着かない蜻蛉のような白澤には珍しいという他ない。
近頃夢を見る。
見るのは決まって同じ光景だ。
地獄に咲く一本の桜の下に捨てられた自分。
地獄には、亡者の生き血を吸って咲くそれはそれは美しい真っ赤な桜があるという。
白澤は、桜の木に押しつけられ亡者達に弄ばれられている。
犯されながら白澤は、僕は桃のほうが好きなのに、と桃源郷の淡い薄白色の花びらを想う。
永く生きて朽ちることもない体にはこれくらい、一瞬の通り雨にあったようなものだ。
たいしたことではない。
亡者達の身勝手な欲望をぶつけられようやく全てが終わり解放され、桜の下にうち捨てられる。
ぼんやりと真っ赤な桜の枝を見上げながら醒めた頭はそう批評するのに、心は何かに脅えている。
自分が何に脅えているかわからない、理由もわからず心臓の裏がざわざわするようなこの感じはただ不快なだけだった。
衣服がやぶれてほとんど裸の身体の上に、どこからかふわりと重みのある黒い衣が落ちてくる。やけに煙管臭いその感触が妙に落ち着く、と思いながら夢はいつもそこで途切れる。
暖かい重みの布はうさぎの羽毛で出来たふわふわの布団で、窓からは柔らかい日が差している、と気付いた時にはもう、さっきまで見た夢のことは彼岸の彼方で忘却されていた。
胸の奥に、ざわざわとよだつ不快感だけが理由もわからずに残っている。
眩しい朝――いや、もう昼だ。
白澤は適当な着物を拾い上げてもそもそと着込んで部屋を出る。
リビングを抜けて漢方薬局の店内に出ると、桃太郎がカウンターの裏側でしっかり店主代理を務めていた。
「あ、白澤さま起きたんスね。んじゃそろそろ昼にしますか」
桃太郎は白澤と時計を見比べてごりごりと生薬を潰していた手を止める。
どうやらお腹が空いたから起きてきたと思われたらしい。
そういうわけでもないのだが、言われて見れば確かに腹がへってきた。
「んー何でもいいから辛いの食べたい」
近頃桃太郎はとても優しい。
昼過ぎまで寝坊したってあまり起こらないし、こうして店番もして調合の下準備まですましておいてくれる。ご飯だってリクエストと聞きつつ健康にも留意してくれる。今日も辛さ控えめの火鍋と甘い点心でも作ってくれるのだろう。
「準備しますからちょっと待っててください……って白澤さまなんでそんな格好」
「これ?」
白澤は両手をちょっと広げて自分の格好を見下ろす。
指摘されるまで自分ではおかしいとは思わなかった。
「今日はいつもの白衣じゃないんですね」
「いやータンス開けたら予備がなくて」
「あ!そうだここ数日の大雨で洗濯干せなかったんでした」
桃源郷は1年を通して過ごしやすいところではあるが稀に雨も降る。
そうでなければ薬草も桃も育たないので当然だが。
「久しぶりに晴れたね」
いつもの白い道服に白衣といううさんくさい格好ではなく、
簡易の正装に近いゆったりとした道服に飾り帯を締めた白澤は、眩しそうに目を細めた。
「なんだか見慣れません」
「そうか、最近はずっと白衣だったもんね。昔はわりとコレだったんだよ」
白澤はふわりとした袖をツンツンと指で引っ張りながら広げて見せる。
「白澤さま……白衣を着てないってことは」
「ん?」
「アンタ今日は仕事しないつもりなんじゃ!」
「あ、ばれた?というわけでよろしくね、桃タローくん」
「いや俺は何も言いませんけどね。元より二日酔いくらいで店を閉める店主ですから」
とじと目で返す桃太郎に白澤も苦笑するしかない。
よく出来た部下にさすがに申し訳なくなり、
何か手頃だが重要な仕事はないかときょろきょろとカウンターの上を探した。
「あ、じゃあこれちょっと届けてくるよ」
とそこに鬼灯の文様が入った黒い巾着があるのを見つけた。
鬼灯が定期的に頼む薬を入れる、定期契約のデリバリーみたいなものだった。
「え、でもそれ、鬼灯さんのじゃ」
桃太郎が驚いたように顔をあげた。
「そうだけど?あいつは気に食わないけどさー、久しぶりにこの吉兆の神獣様の顔を拝ませてやってもいいからな」
「地獄にはもう来るなと言われたでしょ」
「大丈夫大丈夫。ひとっぱしり行ってかえってくるだけだから」
「でも!ていうかお昼ご飯どうするんですか!」
ひらひらと手をふる白澤に桃太郎は止めようと立ち上がる。
さっきからも桃太郎は軽口を叩きながらも、内心では白澤のことを気遣っていた。
以前からよく気のつく部下だったが「あの時」以来その傾向は顕著だ。
口には出さないが、桃太郎は時折とても辛そうな顔をする。
だから鬼灯も来ないのだろうか。
あの夜、養老の滝で、何度も口づけを交わし、あろうことか――泣きそうなほど安らぎ心が静まるのを感じたのに、あの日以来一度も鬼灯は会いに来なかった。
元より穏やかな関係ではない。特に電話やメールをすることもなく、今日まですぎた。
鬼灯が何を考えているかわからない。あれはただの気紛れだったのかもしれない。
「わかりました!じゃあまっすぐに鬼灯さんのところにいってくださいね!」
きっと心配してますから、と桃太郎は叫んだ。
戸口のところで白澤は足を止める。振り返って、眼を細めて微笑んだ。
心地良い風に朱い耳飾りとふわふわとした道服の袖がたなびく。
「……おまえは良い子だね」
親が子を慈しむようなその物言いは、嫌でも神獣がこの世の理からかけ離れたところにいることを思わせる。神獣の姿に変えた白澤は、「あっ」と思う次の瞬間にはもう桃太郎の視界から消えていた。
――――
白澤はひとっ飛びで閻魔殿にきたはいいが、あの補佐官は当然のごとく地獄を飛び回り留守にしているらしかった。このまま薬を置いて帰ってもいいが、せっかくだからと閻魔の薦めもあり、法廷の奥の鬼灯の私室で待たせてもらうことにしたのだ。
金魚草の置物や小さな食玩コレクション、特に貴重な漢方の蔵書は目を引いた。いつも鬼灯がいるとじっくり観察も出来ないのでここぞとばかりに探検したが1時間もすれば飽きる。
することもなく、白澤は鬼灯の寝台に腰掛けた。
読みかけお書物がどかどか積んであるのが鬼灯らしい。
意外と雑多に物が多い部屋は白澤の部屋とは正反対だが、妙に居心地がよかった。
ここまでは引き立てられる亡者たちの喧噪も、職務に励む鬼達の届かない。やはり気が張ってたのだろう、白澤はごろんと横になっていた。
不気味な金魚のクッションを抱く。
(煙管の匂い……)
鬼灯の匂い。匂いだけではない。そこかしこに、鬼灯の気配が染みこんでいた。
鬼の癖に怖い程まっすぐで、清廉潔白な気。
冷徹とも称される真っ直ぐな気性は、どこまでも清々しい。
(だから……嫌いなんだ……。鬼の…くせに……)
白澤は気付ば夢も見ないほど眠りこんでいた。
深く深く深淵に潜る。こんなに眠れたのは久しぶりだった。
――――
「は……鬼灯!?え、どうして鬼灯が!?」
「おはようございます、白澤さん。寝ぼけてるんですか、ここ私の部屋ですよ」
がばり飛び起きると、そうだ、鬼灯を待っている間寝てしまったんだと思い出す。
いつの間にか部屋の主の鬼灯は帰ってきていて、しかもあの恐ろしい形相で睨んでる。
でも今はそれよりも。
「今何時。桃タローくんに連絡しなきゃ!」
「2時です。夜中の。桃太郎さんにはとっくに私から連絡しておいたのでご心配なく」
「はあーよかったあ。最近僕信用ないからねえ……」
これ以上信用を失墜されるわけにはいかない。
ひとまずほっとすると、今度は鬼灯が目の前にいることが気になりだした。
会うのは……あの日からちょうど2週間ぶりだ。
「……なぜあなたがココにいるんですかとか聞きたいことはたくさんあるんですがまあいいでしょう。とりあえずその私の枕に落とした涎をふきなさい」
「うわごめん!」
「で、どうしてここにいるんですか」
「いつもの薬を届けにね。ほれ」
と、テーブルに置いた巾着を指さす。
鬼灯は見向きもしなかった。
「そんなことを聞いてるんじゃありません。『地獄にはもう来るな』と言ったのを忘れたんですかその脳味噌は」
「覚えてるけど!おまえの言うことを聞くギリはないね」
鬼灯が腹の底から怒っているのをひしひしと感じたが、白澤も負けじと言い返す。
この鬼神のいつもの無茶苦茶な要求を聞いていたら多分自分は死ぬしかなくなる。
「だいいち、おまえこそどうしてこっちに来ない。あの日あんなこと僕にしておいて!僕のこと好きだって言ったの嘘だったのかよ!」
清廉な清酒の滝で清められながら、
大切に、愛おしむように何度も撫でてくれた鬼灯の手。
好きだと告げたら同じ言葉を返してくれて、唇を重ねた。
それを大切な思い出だと後生大事に持っているほど女々しいつもりはないが、
しかし今までの自分達の関係を考えれば天地がひっくり帰るほどの衝撃だったのだ。
それともやはり――無様な神獣を哀れんだ鬼神の同情だったとでもいうのか。
それを確かめなければならなかった。
「質問の答えになってませんね。まさかそんなくだらないことを聞きにここへ来たんですか!?」
鬼灯の勢いは止まらず、とうとう白澤の胸ぐらを掴み上げ、白澤の躰は腰掛けていた寝台から少し浮いた。
「くだらない、って……おま」
「……あなたにまた何かあったら、私は…私は…」
頭に血がのぼって言い返そうと思った言葉は、
掴まれた胸ぐらごとふいに抱きしめられ、
耳元に近づく聞いたこともないような鬼灯の弱々しい声に遮られた。
「鬼灯…?」
白澤は驚いておずおずと腕を回した。
「私は、今度はどこにも行けぬよう手足をもぎふらふらと脇見ばかりするその9の目を潰しよく回る信用出来ない舌を抜き二度と天国には返さないかもしれない。」
「怖いよお前!ますます仕事中毒に磨きがかかってんな!」
「いやまあ冗談ですけど。というか貴方意味を誤解してそうですけど」
白澤は、鬼灯の今の発言をいつもの「とりあえず会ったら即金棒かましとけ」の延長程度にしか思っていないようだが少しばかり目的と意図がずれている。
「でもまあ、そういうことです」
鬼灯は、いつもは呵責しかくわえないその馬鹿力を持つ手で、白澤のさらさらの黒髪を撫でた。
ぷっくりふくれながら白澤は腕の中で身を捩る。
「じゃーなんで来なかったんだよ」
「忙しかったんですよ、それと」
とん、と鬼灯は白澤の肩を軽く押した。
白澤の躰が寝台に倒れ込む。鬼灯は身体の両側に手をつき覆い被さり、見下ろして嗤った。
「次に会ったら、こうなるのがわかりきってきたから。亡者に嬲られた貴方を、さらに傷つけるだけだとわかっていたから」
」
「――へ?」
一瞬のうちに視界が反転し、下を向く鬼灯の顔と、その向こうの天井を見上げるばかりの白澤は間抜けな声を返す。
鬼灯は白澤の白い首もとを指先でつうと撫でながら低い声で囁いた。
「私がどれだけ、我慢したと思ってるんだ」
冷徹な鬼神の、欲に塗れた低い声。
初めて聞く声だった。
(続)
――――――
お気に召したらぽちっといただけたら励みになります!
黒猫が前を横切ると災厄がある。
霊柩車を見かけるとよくないことが起こる。
このようなジンクスは古今東西にあり、
神獣白澤もまたそのような神秘的(眉唾とも言える)な存在の一つだった。
吉兆の印、平和の象徴。
白澤は賢帝と、平和な治世に現れるという。
幸運にもその姿を見かけた者は孫子の代まで繁栄があるのだと言い伝えられている。
だからというわけではないが、白澤は時折現世へ降りて行く。
珍しい遊びがあるし、女の子も可愛い。
もっとも、あの恐ろしい鬼が絡むと望まなくても下界におっこちるハメになることも多々あるのだが。
何より白澤は人間が好きだった。
あまりに早く生まれすぎた白澤は、何千年も、何万年も、人間が生まれるのを心待ちにしていた。
しかしその白澤が天国ばかりか、中国との境の桃源郷からも一歩も外に出なくなってから早く2週間。ほとんんど永遠の時を生きるあの世の人間には瞬きをするような時間ではあるのだが、日替わりで女の子をとっかえひっかえふらふらと落ち着かない蜻蛉のような白澤には珍しいという他ない。
近頃夢を見る。
見るのは決まって同じ光景だ。
地獄に咲く一本の桜の下に捨てられた自分。
地獄には、亡者の生き血を吸って咲くそれはそれは美しい真っ赤な桜があるという。
白澤は、桜の木に押しつけられ亡者達に弄ばれられている。
犯されながら白澤は、僕は桃のほうが好きなのに、と桃源郷の淡い薄白色の花びらを想う。
永く生きて朽ちることもない体にはこれくらい、一瞬の通り雨にあったようなものだ。
たいしたことではない。
亡者達の身勝手な欲望をぶつけられようやく全てが終わり解放され、桜の下にうち捨てられる。
ぼんやりと真っ赤な桜の枝を見上げながら醒めた頭はそう批評するのに、心は何かに脅えている。
自分が何に脅えているかわからない、理由もわからず心臓の裏がざわざわするようなこの感じはただ不快なだけだった。
衣服がやぶれてほとんど裸の身体の上に、どこからかふわりと重みのある黒い衣が落ちてくる。やけに煙管臭いその感触が妙に落ち着く、と思いながら夢はいつもそこで途切れる。
暖かい重みの布はうさぎの羽毛で出来たふわふわの布団で、窓からは柔らかい日が差している、と気付いた時にはもう、さっきまで見た夢のことは彼岸の彼方で忘却されていた。
胸の奥に、ざわざわとよだつ不快感だけが理由もわからずに残っている。
眩しい朝――いや、もう昼だ。
白澤は適当な着物を拾い上げてもそもそと着込んで部屋を出る。
リビングを抜けて漢方薬局の店内に出ると、桃太郎がカウンターの裏側でしっかり店主代理を務めていた。
「あ、白澤さま起きたんスね。んじゃそろそろ昼にしますか」
桃太郎は白澤と時計を見比べてごりごりと生薬を潰していた手を止める。
どうやらお腹が空いたから起きてきたと思われたらしい。
そういうわけでもないのだが、言われて見れば確かに腹がへってきた。
「んー何でもいいから辛いの食べたい」
近頃桃太郎はとても優しい。
昼過ぎまで寝坊したってあまり起こらないし、こうして店番もして調合の下準備まですましておいてくれる。ご飯だってリクエストと聞きつつ健康にも留意してくれる。今日も辛さ控えめの火鍋と甘い点心でも作ってくれるのだろう。
「準備しますからちょっと待っててください……って白澤さまなんでそんな格好」
「これ?」
白澤は両手をちょっと広げて自分の格好を見下ろす。
指摘されるまで自分ではおかしいとは思わなかった。
「今日はいつもの白衣じゃないんですね」
「いやータンス開けたら予備がなくて」
「あ!そうだここ数日の大雨で洗濯干せなかったんでした」
桃源郷は1年を通して過ごしやすいところではあるが稀に雨も降る。
そうでなければ薬草も桃も育たないので当然だが。
「久しぶりに晴れたね」
いつもの白い道服に白衣といううさんくさい格好ではなく、
簡易の正装に近いゆったりとした道服に飾り帯を締めた白澤は、眩しそうに目を細めた。
「なんだか見慣れません」
「そうか、最近はずっと白衣だったもんね。昔はわりとコレだったんだよ」
白澤はふわりとした袖をツンツンと指で引っ張りながら広げて見せる。
「白澤さま……白衣を着てないってことは」
「ん?」
「アンタ今日は仕事しないつもりなんじゃ!」
「あ、ばれた?というわけでよろしくね、桃タローくん」
「いや俺は何も言いませんけどね。元より二日酔いくらいで店を閉める店主ですから」
とじと目で返す桃太郎に白澤も苦笑するしかない。
よく出来た部下にさすがに申し訳なくなり、
何か手頃だが重要な仕事はないかときょろきょろとカウンターの上を探した。
「あ、じゃあこれちょっと届けてくるよ」
とそこに鬼灯の文様が入った黒い巾着があるのを見つけた。
鬼灯が定期的に頼む薬を入れる、定期契約のデリバリーみたいなものだった。
「え、でもそれ、鬼灯さんのじゃ」
桃太郎が驚いたように顔をあげた。
「そうだけど?あいつは気に食わないけどさー、久しぶりにこの吉兆の神獣様の顔を拝ませてやってもいいからな」
「地獄にはもう来るなと言われたでしょ」
「大丈夫大丈夫。ひとっぱしり行ってかえってくるだけだから」
「でも!ていうかお昼ご飯どうするんですか!」
ひらひらと手をふる白澤に桃太郎は止めようと立ち上がる。
さっきからも桃太郎は軽口を叩きながらも、内心では白澤のことを気遣っていた。
以前からよく気のつく部下だったが「あの時」以来その傾向は顕著だ。
口には出さないが、桃太郎は時折とても辛そうな顔をする。
だから鬼灯も来ないのだろうか。
あの夜、養老の滝で、何度も口づけを交わし、あろうことか――泣きそうなほど安らぎ心が静まるのを感じたのに、あの日以来一度も鬼灯は会いに来なかった。
元より穏やかな関係ではない。特に電話やメールをすることもなく、今日まですぎた。
鬼灯が何を考えているかわからない。あれはただの気紛れだったのかもしれない。
「わかりました!じゃあまっすぐに鬼灯さんのところにいってくださいね!」
きっと心配してますから、と桃太郎は叫んだ。
戸口のところで白澤は足を止める。振り返って、眼を細めて微笑んだ。
心地良い風に朱い耳飾りとふわふわとした道服の袖がたなびく。
「……おまえは良い子だね」
親が子を慈しむようなその物言いは、嫌でも神獣がこの世の理からかけ離れたところにいることを思わせる。神獣の姿に変えた白澤は、「あっ」と思う次の瞬間にはもう桃太郎の視界から消えていた。
――――
白澤はひとっ飛びで閻魔殿にきたはいいが、あの補佐官は当然のごとく地獄を飛び回り留守にしているらしかった。このまま薬を置いて帰ってもいいが、せっかくだからと閻魔の薦めもあり、法廷の奥の鬼灯の私室で待たせてもらうことにしたのだ。
金魚草の置物や小さな食玩コレクション、特に貴重な漢方の蔵書は目を引いた。いつも鬼灯がいるとじっくり観察も出来ないのでここぞとばかりに探検したが1時間もすれば飽きる。
することもなく、白澤は鬼灯の寝台に腰掛けた。
読みかけお書物がどかどか積んであるのが鬼灯らしい。
意外と雑多に物が多い部屋は白澤の部屋とは正反対だが、妙に居心地がよかった。
ここまでは引き立てられる亡者たちの喧噪も、職務に励む鬼達の届かない。やはり気が張ってたのだろう、白澤はごろんと横になっていた。
不気味な金魚のクッションを抱く。
(煙管の匂い……)
鬼灯の匂い。匂いだけではない。そこかしこに、鬼灯の気配が染みこんでいた。
鬼の癖に怖い程まっすぐで、清廉潔白な気。
冷徹とも称される真っ直ぐな気性は、どこまでも清々しい。
(だから……嫌いなんだ……。鬼の…くせに……)
白澤は気付ば夢も見ないほど眠りこんでいた。
深く深く深淵に潜る。こんなに眠れたのは久しぶりだった。
――――
「は……鬼灯!?え、どうして鬼灯が!?」
「おはようございます、白澤さん。寝ぼけてるんですか、ここ私の部屋ですよ」
がばり飛び起きると、そうだ、鬼灯を待っている間寝てしまったんだと思い出す。
いつの間にか部屋の主の鬼灯は帰ってきていて、しかもあの恐ろしい形相で睨んでる。
でも今はそれよりも。
「今何時。桃タローくんに連絡しなきゃ!」
「2時です。夜中の。桃太郎さんにはとっくに私から連絡しておいたのでご心配なく」
「はあーよかったあ。最近僕信用ないからねえ……」
これ以上信用を失墜されるわけにはいかない。
ひとまずほっとすると、今度は鬼灯が目の前にいることが気になりだした。
会うのは……あの日からちょうど2週間ぶりだ。
「……なぜあなたがココにいるんですかとか聞きたいことはたくさんあるんですがまあいいでしょう。とりあえずその私の枕に落とした涎をふきなさい」
「うわごめん!」
「で、どうしてここにいるんですか」
「いつもの薬を届けにね。ほれ」
と、テーブルに置いた巾着を指さす。
鬼灯は見向きもしなかった。
「そんなことを聞いてるんじゃありません。『地獄にはもう来るな』と言ったのを忘れたんですかその脳味噌は」
「覚えてるけど!おまえの言うことを聞くギリはないね」
鬼灯が腹の底から怒っているのをひしひしと感じたが、白澤も負けじと言い返す。
この鬼神のいつもの無茶苦茶な要求を聞いていたら多分自分は死ぬしかなくなる。
「だいいち、おまえこそどうしてこっちに来ない。あの日あんなこと僕にしておいて!僕のこと好きだって言ったの嘘だったのかよ!」
清廉な清酒の滝で清められながら、
大切に、愛おしむように何度も撫でてくれた鬼灯の手。
好きだと告げたら同じ言葉を返してくれて、唇を重ねた。
それを大切な思い出だと後生大事に持っているほど女々しいつもりはないが、
しかし今までの自分達の関係を考えれば天地がひっくり帰るほどの衝撃だったのだ。
それともやはり――無様な神獣を哀れんだ鬼神の同情だったとでもいうのか。
それを確かめなければならなかった。
「質問の答えになってませんね。まさかそんなくだらないことを聞きにここへ来たんですか!?」
鬼灯の勢いは止まらず、とうとう白澤の胸ぐらを掴み上げ、白澤の躰は腰掛けていた寝台から少し浮いた。
「くだらない、って……おま」
「……あなたにまた何かあったら、私は…私は…」
頭に血がのぼって言い返そうと思った言葉は、
掴まれた胸ぐらごとふいに抱きしめられ、
耳元に近づく聞いたこともないような鬼灯の弱々しい声に遮られた。
「鬼灯…?」
白澤は驚いておずおずと腕を回した。
「私は、今度はどこにも行けぬよう手足をもぎふらふらと脇見ばかりするその9の目を潰しよく回る信用出来ない舌を抜き二度と天国には返さないかもしれない。」
「怖いよお前!ますます仕事中毒に磨きがかかってんな!」
「いやまあ冗談ですけど。というか貴方意味を誤解してそうですけど」
白澤は、鬼灯の今の発言をいつもの「とりあえず会ったら即金棒かましとけ」の延長程度にしか思っていないようだが少しばかり目的と意図がずれている。
「でもまあ、そういうことです」
鬼灯は、いつもは呵責しかくわえないその馬鹿力を持つ手で、白澤のさらさらの黒髪を撫でた。
ぷっくりふくれながら白澤は腕の中で身を捩る。
「じゃーなんで来なかったんだよ」
「忙しかったんですよ、それと」
とん、と鬼灯は白澤の肩を軽く押した。
白澤の躰が寝台に倒れ込む。鬼灯は身体の両側に手をつき覆い被さり、見下ろして嗤った。
「次に会ったら、こうなるのがわかりきってきたから。亡者に嬲られた貴方を、さらに傷つけるだけだとわかっていたから」
」
「――へ?」
一瞬のうちに視界が反転し、下を向く鬼灯の顔と、その向こうの天井を見上げるばかりの白澤は間抜けな声を返す。
鬼灯は白澤の白い首もとを指先でつうと撫でながら低い声で囁いた。
「私がどれだけ、我慢したと思ってるんだ」
冷徹な鬼神の、欲に塗れた低い声。
初めて聞く声だった。
(続)
――――――
お気に召したらぽちっといただけたら励みになります!
PR
Comment
最新記事
(05/22)
(05/22)
(05/22)
(05/22)
(04/12)
ブログ内検索
忍者アナライズ
カウンター