☆こちらは鬼灯の冷徹の私設ファンサイトという名の二次創作サイトです。(まことに申し訳ありませんが性質上18歳未満の方は御遠慮ください)★原作者・出版社等とは一切無関係です。女性向け、腐った妄想垂れ流し注意です。☆取り扱いカプ→鬼灯×白澤、白澤×鬼灯
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人質にされた白澤さま続き。モブ白澤要素ご注意ください。全体的に鬼白でハッピーエンドです。最近は神獣の白澤さまの生態について考えると寝れません。あとうさぎが好きです。アンゴラウサギが好きなんですがアンゴラさんは桃源郷にいますかね^v^
鬼と獣の二律背反2
ぼおっと白く霞む視界と思考。
身体のどこも痛みから逃れられたところがなく、しかしその感覚すら麻痺していてただ疲弊していた。
(……………)
(……くるし……もう……)
男が今も『中』に入っているのか、もう出て行ってめちゃめちゃに擦られる感覚だけが残っているのか、それすらも判然としない。酷くだるい。指一本動かせず、息も出来ず、ただ苦しい。
(まだ……おわらないのかよ……)
精液と涙が伝う頬を畳におしつけ90度回転した世界をぼんやりと見上げながら、白澤は世界から切り離されたような喪失を味わった。森羅万象万智に通じる神獣が、なんと情けないことだろう。
「神獣サマ身体に目があるってほんとだったんだ?この刺青みたいなやつ?」
「じゃあ身体中に顔射できるんじゃねーの」
「そりゃいいな!」
男たちの嘲りやうっとおしい好奇の視線、弄ぶような残虐さにもだんだんどうでもよくなる。どうでもいいと思う理性の下で、傷つけられた心が泣き声をあげていた。
空気は濁って湿っていて、息も出来ない。時折必要最低限に肺を動かし息をつく。ここの空気は汚れている。早く桃源郷に帰りたい。それだけを願う。
どれだけの時がたったのか、白澤にとっては永遠のようで、しかし実際はそれほどでもなかったかもしれない。突如ドタドタドタドタと乱暴なざわめきが近づき、しいんと静まり返った世界に亀裂が走った。
白澤の泥のような意識は揺さ振られ、それがきっと地獄の秩序を取り仕切る鬼灯の気配だと気づいた時、薄い笑みが白澤の唇の端に浮かんだ。
(ああ、アイツがきたのか)
地獄の秩序そのものというべき、冷徹の化身が。
こうでなくてはいけない。
天網恢々疎にして漏らさず、それがあの常闇の鬼神が治める地獄の正しい在り方なのだから。
(でも、アイツにだけはこんな情けないところ見られたくはなかったな)
―――――
「なんだなんだ兄ちゃん……うおおっ」
「私の地獄でよくぞ好き勝手してくれましたね!?天誅っ!」
奥座敷までの長い畳の襖をスパスパ威勢良く開けていた足音は止まり、みしりと茶屋が屋台骨から崩れんばかりの勢いで襖を蹴破って立てこもり現場に突入した。
地獄を束ねる鬼神は案外無表情や不機嫌そうなしかめ面に留まることが多く、ここまで激昂した般若の形相を見たものは少ない。
「ヒッ」
「鬼っ……!」
ほとんど反応を示さなくなった白澤を弄ぶことにも飽きた亡者達は少し離れたところにいて、鬼灯の気迫にさらに後ずさった。
「人質は解放してもらいます」
鬼灯は手当たり次第に見張りの男を金棒で殴り飛ばしながら、畳に転がされた白澤の傍へと近寄った。足元の、身動き一つ出来ない白澤の惨状としかいえない現状にも当然気づいている。気づいているが一瞥すらしない。その代わりに、しゅるりと腰帯を解くとホオズキの意匠を背にいれた羽織を脱いだ。
「貴様らなど阿鼻地獄で永遠に針に貫かれ鉄で焼かれるのすら生ぬるい。」
ばさりと脱いだ着物を足元に落とす。
元は白衣と道服だっただろう布切れの残骸がかろうじてまとわりついているだけの白澤の上に。
「……」
「白澤さん、少しだけ待っていてください」
肌着の襦袢一枚になった鬼灯は亡者たちを見据えたまま、声を強張らせて囁いた。
「ほおず、き」
虚ろな瞳が揺らいで名前を呼ぶ。
重力に従いふわりと落ちた厚みのある黒い布地の感触は煙管の煙が染み付いていて、白澤は無意識のうちに肺を震わせた。深く息を吸い込む。鬼灯の匂い。
やっと、息が出来る。
――――――――――
鬼灯が脱走した亡者達を、顔の原型がわからなくなるほど殴り飛ばした頃には他の獄卒達も集まってきた。
「鬼灯さま、ご無事でしたか」
「私はなんとも。それよりこの亡者共を阿鼻地獄に早く収容してください。それから警備強化の手配を。花街の営業も徐々に元通りに出来るように」
「あの、白澤様は」
テキパキと下す指示の中に足元に転がっている人質の件がないことにいぶかしみながら獄卒鬼はおそるおそる尋ねた。つい声が小さくなってしまうのは、平時が菩薩に見えてしまうほど、鬼灯が怒っているのがわかったからだ。
「……私が診ますので行っていいです」
萎縮している獄卒がそそくさと立ち去ると、鬼灯はしゃがみ白澤を抱き起こした。
「まったく……余計な手間をかけさせてくれますね」
鬼灯が恐ろしい顔をしているのが無性に怖くて白澤は思わず首をすくめるが、いつものような突然の暴力はなく、それどころか非常に優しい手つきで手首に食い込む縄をほどいてくれた。
「もう大丈夫ですよ」
「……もうも何も僕は最初から大丈夫だ」
「そんなわけないでしょう」
鬼灯は幼い子供をあやすように、白澤の背をゆるりと撫でた。
は、と白澤はしゃくるように息をひとつつく。
後始末をする獄卒たちは、あえて2人から距離をおいて、各々の職務に従事している。鬼灯がついてるなら問題ないし、彼らなりの気遣いでもあった。
「ほんとに平気なんだけど。僕を何だと思ってるのさ。お前なんかより何万年何億年永く生きてる神獣なんだよ?」
「ではあなたは長生きしすぎてボケたようですね。こういう時にはもっとちゃんと、傷ついていいということも忘れるくらいに」
「え……?」
「泣いていいし、怒って良いんです」
白澤は頬は殴られ目もとにかけて朱く腫れ、そもそも濁った体液でどろどろに汚れている。鬼灯はかぶせた自分の羽織の袖で顔を拭ってやった。ごしごしと乱暴に拭われ、黒い袖に白が移ると白澤はむっと顔をしかめた。
「汚れるよ。てゆーか、おまえ寒そう」
鬼灯は白澤に着物を羽織らせてしまったので薄い肌着の着物一枚だ。
「ひと汗かいたので暑いくらいです。ほら、ちゃんと袖を通してーー立てますか?」
「うん」
差し出された手を取り、よっこいせ、と起き上がる。
情けないほどガクガクと膝が笑うがなんとかよろめかずにすんだ。
「おまえに優しくされるとか気持ち悪い」
「普通ですよこれくらい」
鬼灯も、白澤も、
お互い言いたいことも言うべきこともたくさんあったはずだった。何があったかはよくわかっている。
しかし言葉だけが見つからない。舌先で言葉がもつれるばかりで取り留めのない言葉しか出て来ない。
心臓が握り潰すされるような重苦しい沈黙がのしかかる。だいたい元々彼らはこのように穏やかに言葉を交わす仲ではなかったのだ。何も伝えられない代わりに、鬼灯は着物の影で白澤の指先に指先を絡ませ、すぐに離れた。
「もう地獄には来ないで下さい」
鬼灯がそう言ったのは、心配気に駆けつけていた桃太郎と共に、白澤を朧車に押し込んだ時だった。桃太郎は鬼灯突入する前から詰所に来ていた。しかしどうすることも出来ず、全て鬼灯にたくしたのだった。
このようになったのは天界の方針が確かに原因の一つではあったが、そもそも白澤がこんな頻繁に地獄に出入りしなければこのようなことにはならなかったはずなのだ。
「傷を癒すのにも桃源郷のほうがいいでしょうから。ーー桃太郎さん、頼みましたよ」
淡々と告げる鬼灯の言葉は命令のようにも懇願のようにも聞こえた。良く出来た部下だと評判の桃太郎は、泣きそうな顔で頷いた。
からからからからと夜空を駆ける朧車の轍を見上げる。
鬼灯は仕事が残っている閻魔殿へと足早に立ち去った。
――――――
鬼灯は桃源郷への道を急いでいた。
ひたひたとひたひたと、草履の音が早くなる。事後処理を終わらせて白澤の様子を見に行くつもりだったがすっかり遅くなってしまったのだ。見兼ねた閻魔大王が、残りは引き受けるから早く行きなさいと言ってくれなかったらまだ机にしがみついていただろう。
もうすぐ日付が変わるかという頃。
ひたひたと走る音はようやく極楽満月の扉を叩いた。
「桃太郎さんだけですか?あのバカは」
しかしがらんとした店内はいつものような明るさもなく、(というよりこんな夜分に訪れたことがあまりない)、鬼灯は思わず辺りを見渡す。
「それが…白澤様、戻ってきてすぐは大人しく薬膳鍋を食べてたんですが…急に『一人になりたい』って出て行ってしまって……」
おろおろと視線を揺らす桃太郎は泣きそうに続ける。
「それなら俺が代わりに出て行くからここにいて下さいって言ったら、」
「外の方が落ち着くからとでも言って強引に出て行ったのでしょう?あのマヌケは」
と鬼灯が言葉を引き取った。
「まあわからないでもないですよ、元々獣ですからね。人里よりは野山の方がアレの本質にはあうのでしょう。だから桃太郎さんが気に病むことはありませんよ」
「お願いします、白澤様を迎えにいってください。あの人ちょっとアレだし分かりづらいけど、でも、鬼灯さんを待っているような気がするんです」
「おや、どうして」
「『鬼灯が来るかもしれないから、君はここにいてよ』って白澤様言ってたんです」
最初は単に足止めの意味くらいしかないと思ってたんですけど、と優秀な弟子は付け足した。
「……仕方ない、ちょっくらあの馬鹿を連れ戻してきます」
―――――
あの世一の絶景である夜の桃源郷は、昼間とはまた違う異相を示す。
霧が薄くたちこめ、蛍のような夜光虫がぽっぽっと舞う幻想的な光景。夜でも寒いということはなく、生暖かな風がぬるく頬を撫でて過ごしやすい。だから一晩くらい野宿をしてもどうということはないのだが、白澤を早く見つけたかった。神獣の足で遠くにいってしまったなら探しようもないが、幸い、すぐに白澤の居場所は見当がついた。
うさぎがいた。
可愛らしいふわふわした小さな動物。
普段は漢方医局の従業員をしている彼らだが、上司でもある白澤にはよく懐いている。
白いふわふわが暗がりでぼんやり光っている。
鬼灯はなんとはなしに道を外れ近くまで行って、うさぎを抱き上げた。
ひとしきりもふもふすると、今度はうんと向こうの木の影に別のうさぎがぴこぴこ耳を跳ねさせているのが見えた。
鬼灯は抱き上げたうさぎを下ろし、そっちのうさぎの方へと歩く。
そういう具合に、うさぎの後をたどった。
暗がりでぼんやりと光る白いもふもふしたうさぎを10羽くらい追って森の奥に分け入ると、ごうごうと激しく流れる滝の前に出た。
最後のうさぎが見つかった。
最後のうさぎは、白い三角巾の両端がうさぎの耳のようにとんがっている白澤の後ろ姿だった。
――――
何でそんなところに!?
とさしもの鬼神も頭が真っ白になってしまうほど奇妙なところに白澤は突っ立っていた。
白澤は滝が落ちてくる泉に足を浸して立っていた。
白衣の下の道服のズボンがひざぐらいまで浸かっている。
「とうとう脳みそに蛆が湧いたんですか、白澤さん!」
鬼灯は白澤の後をおい、着物をたくし上げてざぶざぶと泉に入って行った。水飛沫が顔や上着にもかかってうっとおしい。
しかもこれはただの水ではない。
ここは、全ての水がアルコールに変わる秘跡。
養老の滝だった。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどここまでとは!死にますよ!?」
ざぶざぶと近寄って、ガッと白澤の腕を取る。
ここは水深は膝丈くらいだったが、滝が思ったより近く、霧のように飛沫があっちこっちから叩きつけられ、息も出来ない。
気化したアルコールの中にいるようなものだ。
「酒臭え……」
鬼灯は顔を引きつらせる。
うわばみだカガチだと言われる鬼灯に比べて白澤はそれ程酒は強くない。それも、「美味しい酒をちょっとずつ飲みたい」と生ぬるいことをぬかすくらいだ。
これは正真正銘の大吟醸の滝。
びっしょりと降る酒の雨がさまざまな粘膜から吸収され鬼灯ですら立ってるだけでうんざりとするくらいだった。
「ここにくれば、もう匂いがしない気がしたから」
「は……?」
背を向けたままぽつりと呟く白澤の声は、滝の音にかきけされ、よく聞こえない。
「全然平気なのに……いや、実際全然平気なんだけどね、でも」
「……」
「あいつらの匂いがいつまでたっても消えてくれなくて、うんざりなんだ」
「……」
「記憶はすぐに薄れるけど、これっばかりはダメだね。ベタベタした匂いが消えない」
びっしょりと濡れた白衣が身体にはりつき、白澤は寒々しく自身の体を抱きしめるようにしていた。
「今のあなたからは酒の匂いしかしませんよ。それも極上の大吟醸の」
鬼灯は震える白澤を後ろから腕を回して抱きしめた。
氷のようにひえていて、それでいて酔っ払いのようにほのかに暖かくて、おまけに物凄く酒臭い肌を落ち着かせるようにゆるゆると撫でる。
「それに、とっても綺麗です」
「ふうん、お前でもそんな慰め言えるんだ」
「ひどいですね、私はいつも大抵だいたいおおかたは真実と正論しかいいませんよ」
酒のシャワーを浴びている白澤を抱きしめながら、鬼灯は自分で言ったことながらおやと首をかしげた。
つやつやと、ただでさえ真っ白の白澤の輪郭がいつも以上に輝いているように見えたのだ。
よくよく目を凝らせば、産毛が淡白く輝いている。
不思議に思って鬼灯は白澤の手を取ってさらに顔に近づけた。
やっぱり輝いている、神々しいとしかいいようのないほど。
「白澤さん。気分はどうですか」
「……そんなに悪くないかな。おまえが不気味なくらい優しいのが不気味なことを除けば」
それに、ウワバミの鬼灯でさえ影響があるほどのアルコールなのに白澤はそれほど酔ってはないように見えた。
「そうか、あなた腐っても神獣ですもんね」
なるほど、と鬼灯は興味深げに一人頷いた。
「なんだよ、腐ってもって」
白澤はぶつくさいいながらもすべすべと手首をなでる鬼灯の腕から逃れようとはしない。
そういうところは少し酔っているようにも見えた。力を抜いて背にもたれるようにすらしている。
「大吟醸は神への奉納や土地や柱を清めるためにも使われる清酒です。だからあなたにも良い影響があるのでしょうね」
白澤は目を真ん丸くして、振り返った。
「心配しなくても、もうあの亡者たちの汚らわしい匂いは全くしませんよ」
ぽたぽたと、どしゃぶりにあったみたいに前髪から落ちてくる酒のしずくを頬になでつけ鬼灯は眼を細めた。
いかにも、これは可笑しい発見だ、とでもいいたげに。
「ほんと?」
「はい」
「……よかった」
「……はい」
力が抜けたのか酔いが回ったのか、白澤はよろめいた。
ちょっと足を踏み外しただけなのに滝つぼにつながる泉は一気に深くなり、ドボンと白澤の姿が見えなくなった。
「うわっ!!」
「そのまま一生沈んでろ!」
ぷはっと顔を水面に出し、なんとか浅いところまで自力で這い上がった白澤を、鬼灯は仕方なさそうに手を伸ばして引き上げた。
「ぶはっ……さすがに、ちょっときつかった」
「当たりまでしょう今度こそアルコール中毒で死にますよ。むしろ死ね」
「うん……でももう少しだけここにいたい」
まだ忘れられないことがあるのだろうか。
白澤はぺったりと頬に張り付いた水しぶきを払いながら目元を覆った。
その腕にも、いくつも傷がついている。
指のあと、痣。べたべたとまとわりつく男たちの体液。
とはいえ、さすがに身の危険がある。
鬼灯はいつになく、というよりこの男に対する一生分の甲斐甲斐しさを発揮したように白澤を抱き上げた。
抱き上げて、ずんずんざぶざぶと泉を横切り、滝つぼのふちにある岩の上に座らせた。
足を伸ばしていすのように座らせると、ちょうど白澤のつま先が泉につくかつかないかというところだった。
鬼灯は泉の中に身を浸したままで、ちょうど腰のあたりの深さに立っていた。
「……おまえばっかずるい」
「ずるいとかずるくないとか、子供ですか」
ぴしゃぴしゃと水しぶきをあげぶらぶらさせる白澤の足が目の前にある。
鬼灯は白澤の靴を脱がせると、はだしのつま先に手のひらで掬い上げた清酒をかけた。
「…くすぐったいんだけど」
足先をだくようにした手のひらが白い脚を上って、すべすべと触れる。
傷ついた箇所を、汚された場所を、神に捧げる命の水で清めるように。
「ねえ、鬼灯。くすぐったいって」
鬼灯が無言だと白澤も居心地がなんとなく悪い。
言葉を引き出したくて何度も話しかけるが鬼灯は気にも留めなかった。
耳に入っていないはずはないのに。
「好きだよ、鬼灯。ごめん」
道服のズボンをくるくるとまくり、清酒をすくいあげ、たんたんと肌をすべっていた手のひらが、ぴたりと止まる。
とまって、かわりに、唇がふとももに触れた。そしてようやく鬼灯は口を開いた。
「私も好きですよ。はっきりと自覚したのは、今日でしたが」
「奇遇だ、僕もだ」
白澤はくったくなく笑うと、目の前にあった鬼灯の胸の辺りを蹴って、ざぶんと泉に飛び降りた。
ばしゃりと水しぶきがかかって鬼灯は顔をしかめた。
そしてしかめっつらのまま、何か恐ろしいものを見たように眉をしかめて、
白澤に唇を寄せる。
月光に照らされた清酒の滝で、何度も何度も、
酔いが回ったように二人は厭きもせず唇を交わした。
(了)
――――
お清めプレイ!!色んな意味で!
そのうち後日談とかかきたいなーと思います
お気に召したらぽちっといただけたら励みになります!感想などもありがとうございますー!
身体のどこも痛みから逃れられたところがなく、しかしその感覚すら麻痺していてただ疲弊していた。
(……………)
(……くるし……もう……)
男が今も『中』に入っているのか、もう出て行ってめちゃめちゃに擦られる感覚だけが残っているのか、それすらも判然としない。酷くだるい。指一本動かせず、息も出来ず、ただ苦しい。
(まだ……おわらないのかよ……)
精液と涙が伝う頬を畳におしつけ90度回転した世界をぼんやりと見上げながら、白澤は世界から切り離されたような喪失を味わった。森羅万象万智に通じる神獣が、なんと情けないことだろう。
「神獣サマ身体に目があるってほんとだったんだ?この刺青みたいなやつ?」
「じゃあ身体中に顔射できるんじゃねーの」
「そりゃいいな!」
男たちの嘲りやうっとおしい好奇の視線、弄ぶような残虐さにもだんだんどうでもよくなる。どうでもいいと思う理性の下で、傷つけられた心が泣き声をあげていた。
空気は濁って湿っていて、息も出来ない。時折必要最低限に肺を動かし息をつく。ここの空気は汚れている。早く桃源郷に帰りたい。それだけを願う。
どれだけの時がたったのか、白澤にとっては永遠のようで、しかし実際はそれほどでもなかったかもしれない。突如ドタドタドタドタと乱暴なざわめきが近づき、しいんと静まり返った世界に亀裂が走った。
白澤の泥のような意識は揺さ振られ、それがきっと地獄の秩序を取り仕切る鬼灯の気配だと気づいた時、薄い笑みが白澤の唇の端に浮かんだ。
(ああ、アイツがきたのか)
地獄の秩序そのものというべき、冷徹の化身が。
こうでなくてはいけない。
天網恢々疎にして漏らさず、それがあの常闇の鬼神が治める地獄の正しい在り方なのだから。
(でも、アイツにだけはこんな情けないところ見られたくはなかったな)
―――――
「なんだなんだ兄ちゃん……うおおっ」
「私の地獄でよくぞ好き勝手してくれましたね!?天誅っ!」
奥座敷までの長い畳の襖をスパスパ威勢良く開けていた足音は止まり、みしりと茶屋が屋台骨から崩れんばかりの勢いで襖を蹴破って立てこもり現場に突入した。
地獄を束ねる鬼神は案外無表情や不機嫌そうなしかめ面に留まることが多く、ここまで激昂した般若の形相を見たものは少ない。
「ヒッ」
「鬼っ……!」
ほとんど反応を示さなくなった白澤を弄ぶことにも飽きた亡者達は少し離れたところにいて、鬼灯の気迫にさらに後ずさった。
「人質は解放してもらいます」
鬼灯は手当たり次第に見張りの男を金棒で殴り飛ばしながら、畳に転がされた白澤の傍へと近寄った。足元の、身動き一つ出来ない白澤の惨状としかいえない現状にも当然気づいている。気づいているが一瞥すらしない。その代わりに、しゅるりと腰帯を解くとホオズキの意匠を背にいれた羽織を脱いだ。
「貴様らなど阿鼻地獄で永遠に針に貫かれ鉄で焼かれるのすら生ぬるい。」
ばさりと脱いだ着物を足元に落とす。
元は白衣と道服だっただろう布切れの残骸がかろうじてまとわりついているだけの白澤の上に。
「……」
「白澤さん、少しだけ待っていてください」
肌着の襦袢一枚になった鬼灯は亡者たちを見据えたまま、声を強張らせて囁いた。
「ほおず、き」
虚ろな瞳が揺らいで名前を呼ぶ。
重力に従いふわりと落ちた厚みのある黒い布地の感触は煙管の煙が染み付いていて、白澤は無意識のうちに肺を震わせた。深く息を吸い込む。鬼灯の匂い。
やっと、息が出来る。
――――――――――
鬼灯が脱走した亡者達を、顔の原型がわからなくなるほど殴り飛ばした頃には他の獄卒達も集まってきた。
「鬼灯さま、ご無事でしたか」
「私はなんとも。それよりこの亡者共を阿鼻地獄に早く収容してください。それから警備強化の手配を。花街の営業も徐々に元通りに出来るように」
「あの、白澤様は」
テキパキと下す指示の中に足元に転がっている人質の件がないことにいぶかしみながら獄卒鬼はおそるおそる尋ねた。つい声が小さくなってしまうのは、平時が菩薩に見えてしまうほど、鬼灯が怒っているのがわかったからだ。
「……私が診ますので行っていいです」
萎縮している獄卒がそそくさと立ち去ると、鬼灯はしゃがみ白澤を抱き起こした。
「まったく……余計な手間をかけさせてくれますね」
鬼灯が恐ろしい顔をしているのが無性に怖くて白澤は思わず首をすくめるが、いつものような突然の暴力はなく、それどころか非常に優しい手つきで手首に食い込む縄をほどいてくれた。
「もう大丈夫ですよ」
「……もうも何も僕は最初から大丈夫だ」
「そんなわけないでしょう」
鬼灯は幼い子供をあやすように、白澤の背をゆるりと撫でた。
は、と白澤はしゃくるように息をひとつつく。
後始末をする獄卒たちは、あえて2人から距離をおいて、各々の職務に従事している。鬼灯がついてるなら問題ないし、彼らなりの気遣いでもあった。
「ほんとに平気なんだけど。僕を何だと思ってるのさ。お前なんかより何万年何億年永く生きてる神獣なんだよ?」
「ではあなたは長生きしすぎてボケたようですね。こういう時にはもっとちゃんと、傷ついていいということも忘れるくらいに」
「え……?」
「泣いていいし、怒って良いんです」
白澤は頬は殴られ目もとにかけて朱く腫れ、そもそも濁った体液でどろどろに汚れている。鬼灯はかぶせた自分の羽織の袖で顔を拭ってやった。ごしごしと乱暴に拭われ、黒い袖に白が移ると白澤はむっと顔をしかめた。
「汚れるよ。てゆーか、おまえ寒そう」
鬼灯は白澤に着物を羽織らせてしまったので薄い肌着の着物一枚だ。
「ひと汗かいたので暑いくらいです。ほら、ちゃんと袖を通してーー立てますか?」
「うん」
差し出された手を取り、よっこいせ、と起き上がる。
情けないほどガクガクと膝が笑うがなんとかよろめかずにすんだ。
「おまえに優しくされるとか気持ち悪い」
「普通ですよこれくらい」
鬼灯も、白澤も、
お互い言いたいことも言うべきこともたくさんあったはずだった。何があったかはよくわかっている。
しかし言葉だけが見つからない。舌先で言葉がもつれるばかりで取り留めのない言葉しか出て来ない。
心臓が握り潰すされるような重苦しい沈黙がのしかかる。だいたい元々彼らはこのように穏やかに言葉を交わす仲ではなかったのだ。何も伝えられない代わりに、鬼灯は着物の影で白澤の指先に指先を絡ませ、すぐに離れた。
「もう地獄には来ないで下さい」
鬼灯がそう言ったのは、心配気に駆けつけていた桃太郎と共に、白澤を朧車に押し込んだ時だった。桃太郎は鬼灯突入する前から詰所に来ていた。しかしどうすることも出来ず、全て鬼灯にたくしたのだった。
このようになったのは天界の方針が確かに原因の一つではあったが、そもそも白澤がこんな頻繁に地獄に出入りしなければこのようなことにはならなかったはずなのだ。
「傷を癒すのにも桃源郷のほうがいいでしょうから。ーー桃太郎さん、頼みましたよ」
淡々と告げる鬼灯の言葉は命令のようにも懇願のようにも聞こえた。良く出来た部下だと評判の桃太郎は、泣きそうな顔で頷いた。
からからからからと夜空を駆ける朧車の轍を見上げる。
鬼灯は仕事が残っている閻魔殿へと足早に立ち去った。
――――――
鬼灯は桃源郷への道を急いでいた。
ひたひたとひたひたと、草履の音が早くなる。事後処理を終わらせて白澤の様子を見に行くつもりだったがすっかり遅くなってしまったのだ。見兼ねた閻魔大王が、残りは引き受けるから早く行きなさいと言ってくれなかったらまだ机にしがみついていただろう。
もうすぐ日付が変わるかという頃。
ひたひたと走る音はようやく極楽満月の扉を叩いた。
「桃太郎さんだけですか?あのバカは」
しかしがらんとした店内はいつものような明るさもなく、(というよりこんな夜分に訪れたことがあまりない)、鬼灯は思わず辺りを見渡す。
「それが…白澤様、戻ってきてすぐは大人しく薬膳鍋を食べてたんですが…急に『一人になりたい』って出て行ってしまって……」
おろおろと視線を揺らす桃太郎は泣きそうに続ける。
「それなら俺が代わりに出て行くからここにいて下さいって言ったら、」
「外の方が落ち着くからとでも言って強引に出て行ったのでしょう?あのマヌケは」
と鬼灯が言葉を引き取った。
「まあわからないでもないですよ、元々獣ですからね。人里よりは野山の方がアレの本質にはあうのでしょう。だから桃太郎さんが気に病むことはありませんよ」
「お願いします、白澤様を迎えにいってください。あの人ちょっとアレだし分かりづらいけど、でも、鬼灯さんを待っているような気がするんです」
「おや、どうして」
「『鬼灯が来るかもしれないから、君はここにいてよ』って白澤様言ってたんです」
最初は単に足止めの意味くらいしかないと思ってたんですけど、と優秀な弟子は付け足した。
「……仕方ない、ちょっくらあの馬鹿を連れ戻してきます」
―――――
あの世一の絶景である夜の桃源郷は、昼間とはまた違う異相を示す。
霧が薄くたちこめ、蛍のような夜光虫がぽっぽっと舞う幻想的な光景。夜でも寒いということはなく、生暖かな風がぬるく頬を撫でて過ごしやすい。だから一晩くらい野宿をしてもどうということはないのだが、白澤を早く見つけたかった。神獣の足で遠くにいってしまったなら探しようもないが、幸い、すぐに白澤の居場所は見当がついた。
うさぎがいた。
可愛らしいふわふわした小さな動物。
普段は漢方医局の従業員をしている彼らだが、上司でもある白澤にはよく懐いている。
白いふわふわが暗がりでぼんやり光っている。
鬼灯はなんとはなしに道を外れ近くまで行って、うさぎを抱き上げた。
ひとしきりもふもふすると、今度はうんと向こうの木の影に別のうさぎがぴこぴこ耳を跳ねさせているのが見えた。
鬼灯は抱き上げたうさぎを下ろし、そっちのうさぎの方へと歩く。
そういう具合に、うさぎの後をたどった。
暗がりでぼんやりと光る白いもふもふしたうさぎを10羽くらい追って森の奥に分け入ると、ごうごうと激しく流れる滝の前に出た。
最後のうさぎが見つかった。
最後のうさぎは、白い三角巾の両端がうさぎの耳のようにとんがっている白澤の後ろ姿だった。
――――
何でそんなところに!?
とさしもの鬼神も頭が真っ白になってしまうほど奇妙なところに白澤は突っ立っていた。
白澤は滝が落ちてくる泉に足を浸して立っていた。
白衣の下の道服のズボンがひざぐらいまで浸かっている。
「とうとう脳みそに蛆が湧いたんですか、白澤さん!」
鬼灯は白澤の後をおい、着物をたくし上げてざぶざぶと泉に入って行った。水飛沫が顔や上着にもかかってうっとおしい。
しかもこれはただの水ではない。
ここは、全ての水がアルコールに変わる秘跡。
養老の滝だった。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどここまでとは!死にますよ!?」
ざぶざぶと近寄って、ガッと白澤の腕を取る。
ここは水深は膝丈くらいだったが、滝が思ったより近く、霧のように飛沫があっちこっちから叩きつけられ、息も出来ない。
気化したアルコールの中にいるようなものだ。
「酒臭え……」
鬼灯は顔を引きつらせる。
うわばみだカガチだと言われる鬼灯に比べて白澤はそれ程酒は強くない。それも、「美味しい酒をちょっとずつ飲みたい」と生ぬるいことをぬかすくらいだ。
これは正真正銘の大吟醸の滝。
びっしょりと降る酒の雨がさまざまな粘膜から吸収され鬼灯ですら立ってるだけでうんざりとするくらいだった。
「ここにくれば、もう匂いがしない気がしたから」
「は……?」
背を向けたままぽつりと呟く白澤の声は、滝の音にかきけされ、よく聞こえない。
「全然平気なのに……いや、実際全然平気なんだけどね、でも」
「……」
「あいつらの匂いがいつまでたっても消えてくれなくて、うんざりなんだ」
「……」
「記憶はすぐに薄れるけど、これっばかりはダメだね。ベタベタした匂いが消えない」
びっしょりと濡れた白衣が身体にはりつき、白澤は寒々しく自身の体を抱きしめるようにしていた。
「今のあなたからは酒の匂いしかしませんよ。それも極上の大吟醸の」
鬼灯は震える白澤を後ろから腕を回して抱きしめた。
氷のようにひえていて、それでいて酔っ払いのようにほのかに暖かくて、おまけに物凄く酒臭い肌を落ち着かせるようにゆるゆると撫でる。
「それに、とっても綺麗です」
「ふうん、お前でもそんな慰め言えるんだ」
「ひどいですね、私はいつも大抵だいたいおおかたは真実と正論しかいいませんよ」
酒のシャワーを浴びている白澤を抱きしめながら、鬼灯は自分で言ったことながらおやと首をかしげた。
つやつやと、ただでさえ真っ白の白澤の輪郭がいつも以上に輝いているように見えたのだ。
よくよく目を凝らせば、産毛が淡白く輝いている。
不思議に思って鬼灯は白澤の手を取ってさらに顔に近づけた。
やっぱり輝いている、神々しいとしかいいようのないほど。
「白澤さん。気分はどうですか」
「……そんなに悪くないかな。おまえが不気味なくらい優しいのが不気味なことを除けば」
それに、ウワバミの鬼灯でさえ影響があるほどのアルコールなのに白澤はそれほど酔ってはないように見えた。
「そうか、あなた腐っても神獣ですもんね」
なるほど、と鬼灯は興味深げに一人頷いた。
「なんだよ、腐ってもって」
白澤はぶつくさいいながらもすべすべと手首をなでる鬼灯の腕から逃れようとはしない。
そういうところは少し酔っているようにも見えた。力を抜いて背にもたれるようにすらしている。
「大吟醸は神への奉納や土地や柱を清めるためにも使われる清酒です。だからあなたにも良い影響があるのでしょうね」
白澤は目を真ん丸くして、振り返った。
「心配しなくても、もうあの亡者たちの汚らわしい匂いは全くしませんよ」
ぽたぽたと、どしゃぶりにあったみたいに前髪から落ちてくる酒のしずくを頬になでつけ鬼灯は眼を細めた。
いかにも、これは可笑しい発見だ、とでもいいたげに。
「ほんと?」
「はい」
「……よかった」
「……はい」
力が抜けたのか酔いが回ったのか、白澤はよろめいた。
ちょっと足を踏み外しただけなのに滝つぼにつながる泉は一気に深くなり、ドボンと白澤の姿が見えなくなった。
「うわっ!!」
「そのまま一生沈んでろ!」
ぷはっと顔を水面に出し、なんとか浅いところまで自力で這い上がった白澤を、鬼灯は仕方なさそうに手を伸ばして引き上げた。
「ぶはっ……さすがに、ちょっときつかった」
「当たりまでしょう今度こそアルコール中毒で死にますよ。むしろ死ね」
「うん……でももう少しだけここにいたい」
まだ忘れられないことがあるのだろうか。
白澤はぺったりと頬に張り付いた水しぶきを払いながら目元を覆った。
その腕にも、いくつも傷がついている。
指のあと、痣。べたべたとまとわりつく男たちの体液。
とはいえ、さすがに身の危険がある。
鬼灯はいつになく、というよりこの男に対する一生分の甲斐甲斐しさを発揮したように白澤を抱き上げた。
抱き上げて、ずんずんざぶざぶと泉を横切り、滝つぼのふちにある岩の上に座らせた。
足を伸ばしていすのように座らせると、ちょうど白澤のつま先が泉につくかつかないかというところだった。
鬼灯は泉の中に身を浸したままで、ちょうど腰のあたりの深さに立っていた。
「……おまえばっかずるい」
「ずるいとかずるくないとか、子供ですか」
ぴしゃぴしゃと水しぶきをあげぶらぶらさせる白澤の足が目の前にある。
鬼灯は白澤の靴を脱がせると、はだしのつま先に手のひらで掬い上げた清酒をかけた。
「…くすぐったいんだけど」
足先をだくようにした手のひらが白い脚を上って、すべすべと触れる。
傷ついた箇所を、汚された場所を、神に捧げる命の水で清めるように。
「ねえ、鬼灯。くすぐったいって」
鬼灯が無言だと白澤も居心地がなんとなく悪い。
言葉を引き出したくて何度も話しかけるが鬼灯は気にも留めなかった。
耳に入っていないはずはないのに。
「好きだよ、鬼灯。ごめん」
道服のズボンをくるくるとまくり、清酒をすくいあげ、たんたんと肌をすべっていた手のひらが、ぴたりと止まる。
とまって、かわりに、唇がふとももに触れた。そしてようやく鬼灯は口を開いた。
「私も好きですよ。はっきりと自覚したのは、今日でしたが」
「奇遇だ、僕もだ」
白澤はくったくなく笑うと、目の前にあった鬼灯の胸の辺りを蹴って、ざぶんと泉に飛び降りた。
ばしゃりと水しぶきがかかって鬼灯は顔をしかめた。
そしてしかめっつらのまま、何か恐ろしいものを見たように眉をしかめて、
白澤に唇を寄せる。
月光に照らされた清酒の滝で、何度も何度も、
酔いが回ったように二人は厭きもせず唇を交わした。
(了)
――――
お清めプレイ!!色んな意味で!
そのうち後日談とかかきたいなーと思います
お気に召したらぽちっといただけたら励みになります!感想などもありがとうございますー!
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